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享受

&

嗚呼、哀れな少年よ


君はいつだって人を、どんなものだって、人を愛したというのに

一人の男に、中年のあの男に、裏切られたんだね。

ぼくは君が、どんなに非道い仕打ちを受けたか知っているよ。

ぼくはいま、ひどく後悔しているんだ。


 君の目が眩むようなまでに、それでいてしっとりと優しい笑顔が、

 焼けて土になってしまったこと。

 君の心の、誰だって冒したことのない領域が、

 散々に荒らされてしまったこと。

 君のきれいに艶めいた肌がすっかり破れて、

 君ではなくなってしまったこと。



どんな人だって助け守るぼくが、

君を見捨てたこと。



嗚呼、少年の哀れなことよ!!


だからこそ僕は後悔しているんだ。

責めてもの償いにと。


僕はあの男を、

階段から突き落すことにした。


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少年

Paper Moon

落花


辺りが一斉に静まり返り

それきり、何も聞こえなくなってしまった。

死んだ月の、それでも綺麗な夜の中、ぼくは苦しさに喘ぐ。

みっともなく、這いつくばって、

やっとの思いで、ワインの血の川へとたどり着いた。

いつものように少年は川の上で仰向けになっていた。


「すまないね、また会いに来てしまった」

ぼくは無理して笑って言った。


「またお前か。いつもどおりひどい顔をしているな」

川に仰向く少年が笑っていった。


「ああ、怖い夢を見たんだ」 

「今も、その真っ最中でね」


ぼくは少年に覆いかぶさるように、

だらりと

飛び込んだ。

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少年

蚕録

自転mono



ぼくは大げさなバッグを抱えて小さな町の駅に着く。

出口のポストに使用済みのキップを入れて駅を出る。


帽子を被った、小さな少年が迎えてくれた。

「ねぇ、お姉ちゃん。あたしにバッグを運ばせてよ」


*「君にはムリだ。これは大きすぎるし、とても重い。」

ぼくはそう言いながら苦笑いを交え、

クシャクシャのチップを差し出した。


「だいじょうぶだよ。それにお金はいらない。」

「あたしはただ思い出したいだけなんだ。」

少年がぼくの目を見て言った。


ぼくは笑って言った。

*「思い出すだって? 君みたいな小さな子に、思い出すようなことがあるもんか。」


少年はムっとした。

「あたしは昔、荷物を運んであげた年老いた旅人を思い出したいんだ」

「小さな断片でもいいから、思い出したいんだ」


ぼくはその老人を知っている。

*「無駄なことだよ。」

*「それにその老人はもう、死んでしまっているかもしれない。」


少年は応える。

「そんなことはどうだっていいんだ。」

「あたしにはその記憶だけが支えなんだから。」


私は呆れて言った。

*「じゃあ町の酒場まで頼もうかな。」



「お安い御用さ」



ぼくは少年が疲れるまで歩き続けた。

少年のいう旅人は、

少なくとも当時は、

旅人ではなかったからだ。

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夏のなごり

萌し

いけない子だ。



「みち草を食ってばかりいると

 とうとう家に帰れなくなってしまいますよ?」

清潔そうな、ワンピースを着た女性がいう。

髪の色は濃いチョコレートと同じ。

きっと長い髪に違いないだろう。



それを見て少年はいう。

「お前にはわからないかも知れない。

 今、僕は、花を見ることに一生懸命なんです。

 蟻を追いかけることに一生懸命なんです。

 風の匂いを感じることにも、

 砂を踏みしめる音を聞くのにも、

 照りつける太陽の暑さを受け止めるのにも、

 とにかく僕は一生懸命なんです。」



女性は驚かないだろう。

「ええ、そうでしょう。」

「私も少し前までは生きることに命を懸けてましたから。」



「それに、僕は日が暮れても帰るわけには行かないのです。」

「僕はこの人生で、この世界の全てを、国の全てを、
 
 この町の、せめてこの道の一角を、

 余すところなくすべてを歩む必要があるんです。」

少年は真剣だ。



女性は眩しそうに、目を細めるだろう。

あなたの世界が

どこまでも途絶えることなく

広がっていくことを願うわ。


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少年

青い帳面

胸騒ぎ


ここはたくさんの人が行き来するね。

でも、誰もぼくらには気づかないし、

足を止めることをしないよ?

ぼくの顔を仰いで少年が言う。


彼らは足を休めることができないんだよ。

ちょっとでも休めば

たちまちその波に巻き込まれ

目を回して死んでしまうんだ。

ぼくは少年に言う。


厚い化粧をしたウェイトレスがこちらへ来る。

彼女がぶっきらぼうに言う。

申し訳ありません、お客様。

お待ちのお客様が大勢いらっしゃるので、

これ以上、ご注文をなさらないのでしたら、

お帰りになってはいかがでしょうか。


少年は困った顔をする。

ねぇ、ぼくたちもう行かなきゃいけないの?


うん。そうみたいだね。


やっと休憩できるところを見つけたのにね。


あぁ、今のこの街はとてもせわしないんだ。

ぼくたちは少し来るのが、遅かったね。


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